2017年11月14日
積雪期の槍ヶ岳へ

積雪期の槍ヶ岳に挑む。
登山者にとっていずれはと思う山、それが槍ヶ岳。
しかも夏ではなく積雪期に登る。
とうとうその日がやってきた。
岩と雪と氷がミックスした壁を登る、その難易度は上級者向け。
谷川岳、赤岳、北穂高岳と積雪期の経験を積んできたのも、
この山のためと言っても過言ではない。

日程は槍ヶ岳山荘の最終営業日に合わせた。
槍のピークを踏むためには、頂上直下にある槍ヶ岳山荘をベース基地とするのが一般的だ。
何故なら、そこまでのアプローチに2日がかりでCT10時間かかるからだ。
標高1500mの上高地から3000mの山荘までテン泊仕様の重いバックパックを担いで行くのは
体力的に難しいだろうとの判断で、テントを持っていかない山小屋泊を選んだ。
山小屋泊で積雪期となると、この小屋締めの最終営業日しかない。
テント装備のないバックパックは10kgと軽い。
これなら3000mまで行けるだろう。

初日の天気は良好。
上高地からのルートでは、まずこの穂高連峰の景色が迎えてくれる。
2500m以上では雪が積もっているのが分かる。
今回の目的地はこの穂高のさらに後ろ。ここから5時間は歩かないとその姿さえ見ることは出来ない。
槍を目指して朝8時にスタート。

2時間で徳澤園に到着。
ここは翌日で今年の営業が終了するためか
人もまばらで寂しい感じだ。

スタート3時間で横尾のテント場に。
ここまではほぼ平らなコースなので疲れることもなく順調に来ることができた。

横尾から涸沢方面と槍沢方面に分かれる。
涸沢方面は穂高に登る人達だ。
登山シーズンの最終日だけに人が少ないが、この時間に槍沢に進む人は自分だけだった。


横尾から1時間で一ノ俣の橋に着いた。
これからの積雪に備えて橋の床を外してある。
雪の重みに耐えられずに橋が崩落するのを防ぐためだ。
足を踏み外さないように慎重に渡る。

歩き始めて5時間で一泊目の宿である槍沢ロッジに到着。
宿泊者は自分だけかと思ったら、夕飯までにはソロ1名、カップル2組、男性3人組、そして自分の計9人となった。
食事の後は談話室で山談義に花が咲き、
全員が槍のピークを目指していることがわかり盛り上がる。
翌日は槍ヶ岳山荘で登頂後に宴会をしようと約束して寝床に就いた。

朝7時に槍沢ロッジを出発して30分でババ平のテン場を通過。
この時点で雪がチラホラ舞ってきた。山の上はガスッていて見えない。
嫌な予感がする。
初めてのルート。
山締めのため途中途中にある標識は先週撤去されている。
ガスで周りの景色が分からないので自分のいる場所が分かりずらい。
雪が積もっているわけではないので先行者のトレースもない。
1人だと遭難する恐れがある。
先に山小屋を出発したカップルはペースが早く既に姿は見えない。
後ろからも誰も来ない。無理をせずに分からなくなったら後続が来るのを待とう。

いよいよ吹雪いてきた。
ルートファインディングが難しいこの時期にホワイトアウトしたら終わりだ。
NTTドコモは先週でここの基地局からの送信が終了しているので携帯からの救助要請もできない。
ネガティブなことばかりが頭をよぎる。

殺生ヒュッテの看板が出てきた。
あと2時間あまりの地点だが、ここから急登が続く。

かなりの吹雪、標高は2900mを越えている。
こんな中での登山は初めての経験だ。
しかし、もう引き返すわけにもいかな地点まで来てしまっている。
2日目の宿泊地である槍ヶ岳山荘を目指すしかない。


1時間あまり吹雪と急斜面に格闘していてふと頭を上げると薄らと山荘が見える。
槍ヶ岳山荘だ。
あと30分で着く。

なんとか助かったが、あまりの悪天候に頂上への登頂は翌日に持ち越すことに。

翌朝は快晴。
昨日吹雪の中で登ってきた槍沢が朝日に照らされて実に美しい。
中央上部には富士山が小さく見える。

だが風が風速20mと強い。
皆、ピークを目指すべきか悩んでいる。
風速20mだと登攀中に運が悪ければ飛ばされてしまうからだ。

これがピークハントのルート(夏の写真)。
岩登りと鎖と梯子のミックスだ。標高差は100mたらずでCTは30分だが
東側から登るので、滑ったら槍沢まで300mは滑落するだろう。

6時半にソロ1人と若者3人がピークを目指して登り始めた。
自分はどうすべきか悩んでいる。
あの後について行けば良かったかな...
風と雪と氷と闘いながら凍てついた岩を登ることが出来るのか。
足を滑らしたら死ぬことは分かっている。
やるか否か自問自答すること30分。
でも、ここで下山したらリベンジにまた来なくてはならない。
その時に今よりコンディションがいい保障はない。
気が付くと、一人で岩の下まで来ていた。
1人で絶対に登れないのは分かっているのに。

あきらめて戻ろうとしたその時、後ろから3人がこちらに向かって登ってくるのが見えた。
外人2人とソロの男性だ。
外人はスイスから来た筋金入りの登山家だった。
ソロ男性は今年だけで槍に10回は登っているという。
このチャンスを逃したら二度と登れないだろうと思い、必死でついて行った。

そして登頂成功!!
恐怖と集中で途中で写真を撮る余裕はまったく無かった。
積雪期に標高3180mの槍の頂に立つことができた。
あまりにも高度感が凄いので最初は頂で立つことが出来なかった。

外人2人はへっちゃらで立っている。
スイスアルプスをたくさん登っているだけある。

眼下には先程までいた槍ヶ岳山荘が見える。
その向こうにそびえる真っ白な山は白山だ。

穂高連峰。手前から北穂、奥穂、西穂と続いている見事な稜線だ。
最後に登るほぼ垂直な梯子の頭が覗いている。
帰りは後ろ向きで降りるのだが、登りより下りのほうが怖いし危険だ。

いや、満足というか半端ない達成感だ。
自分の中で何かを越えられたという気持ち。
大げさかもしれないが、この時のことは一生忘れないだろう。
いつか老いて自由に動けなくなった時に、この写真を見てにやける自分を想像してしまう。
やれるときにやっておいて良かった。
槍沢ロッジで一夜を過ごした9名で槍の頂上に立てたのは自分1人だった。
槍ヶ岳山荘で一夜を過ごした18名で槍の頂上に立てたのは9名だった。
山を下りてから今もあの時の余韻が続いている。
一生に一度は富士山に登りたいというのが庶民の願いであるように、
登山に興味を持った人で、槍ヶ岳の頂上に立ってみたいと願わない者はないだろう。
とは、日本百名山の中の有名な一説であるが、そう言わしめる程の魅力が槍にあるのがよく分かった。

THANKS Mt.YARI
Posted by チェロキ at 08:08│Comments(2)
│登山
この記事へのコメント
先日はありがとうございました。
山の話しを一切しませんでしたね。
このブログを読んで、ビックリしました。
緊迫感がヒシヒシと伝わってきますね。
経験が少ないのに、この冬山に登るとは。
体力と精神力には驚きます。
刺激を求めて冒険を求めると死ぬまでやる羽目になりかねないので、ご注意を!
無事で良かったです。
山の話しを一切しませんでしたね。
このブログを読んで、ビックリしました。
緊迫感がヒシヒシと伝わってきますね。
経験が少ないのに、この冬山に登るとは。
体力と精神力には驚きます。
刺激を求めて冒険を求めると死ぬまでやる羽目になりかねないので、ご注意を!
無事で良かったです。
Posted by koba at 2017年11月14日 08:55
日曜は土方作業お疲れ様でした!
何かを作るって楽しいですねー
槍から戻って1週間。もう何処かに登りたい衝動に駆られてます(^。^)
でも、ほどほどにしないとですね。
何かを作るって楽しいですねー
槍から戻って1週間。もう何処かに登りたい衝動に駆られてます(^。^)
でも、ほどほどにしないとですね。
Posted by チェロキ at 2017年11月14日 09:22